伏見簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人は無罪。
理由
本件公訴事実は、被告人は昭和二十七年九月五日の公示に基き同年十月一日施行された衆議院議員選挙に際し、京都府第一区から立候補した議員候補者加賀田進並びに同第二区から立候補した同候補者柳田秀一に当選を得しむる目的をもつて、その選挙運動期間中なる同年九月十日頃、右両候補者の選挙運動のため文書図画の頒布禁止を免れる行為として、京都市伏見区芳永町株式会社寺内製作所において、「寺内従組委員会で、一区加賀田進、二区柳田秀一両氏を推薦支持と決定!」の見出しの下に「いよいよ、総選挙戦の火蓋は切られた、すでに総評及びSKRに於ては、スイセン候補として京都一区に加賀田、二区に柳田両氏を決定して果敢な闘いを進めている、吾が寺内従組としても両氏のスイセン確認を委員会で決定した」。と記載した同会社従業員組合機関紙「炬火(カガリビ)」約五十枚を西村輝雄外十五名に配布して頒布したものであるというにあつて、被告人が判示日頃、同場所において、同記事の掲載された寺内労組機関紙「炬火」約五十枚を西村輝雄外十五名に配布した事実は当公廷における被告人の供述並びに司法警察員作成の西村輝雄外十五名(検察官提出の十八名の供述調書中森千鶴子、林富美江の二名を除いて)の供述調書の記載、押収にかかる機関紙「炬火」十一通(証第一号)の存在その記載によつて明かである、しかしこれが配布は当公廷における被告人の供述、証人西野駒市、同鳥居南秀夫の証言並びに前顕西村輝雄外十五名の供述調書の記載、弁護人提出の「炬火」二十三通の書証によれば、被告人は組合員約三百八十名を擁する株式会社寺内製作所の労組書記長でかつ労組専従者であつて同労組は昭和二十四年七月一日機関紙「炬火」を創刊し、その後一時休刊したことあるも被告人が書記長となつた昭和二十五年三月頃それ以降は被告人において右機関紙の編集から末端の配布に至るまで一切を担当して毎月不定期に時には労組ニユースの題名の下に組合の活動状況、委員会の決議その他臨時ニユース等を掲載して全組合員に配布していること、判示選挙に際し寺内労組の上層団体なる総評(日本労働組合京都地方総評議員会)およびSKR(京都金属産業労働組合連合会)において判示両名を推薦候補と決定し、寺内労組委員会また両候補者の推薦を確認したので、被告人はその職責上これが記事の起草、がり版印刷、発行部数、配布対象、方法等すべてこれまでどおりのやり方にて機関紙に判示記事を掲載し、これを全組合員に知らすべく各工場の主だつた組合員西村輝雄外十数名に或は本人の手に或は本人の机の上などに一枚乃至四枚程ずつ配布したものなることが認められるが、これが配布が処罰の対象となるには選挙運動のための文書図画頒布禁止を免れる行為としてなされたこと即ち被告人において両候補者の選挙運動のためにする認識の下に配布されたことを要するものなるところ、検察官提出の全証拠によるも未だもつてこれを認め難くただ一つこれが資料として吟味すべきものあるは被告人は終始これが配布はいうまでもなく両候補者を当選させたい考えであつたと供述している一事であるが、被告人の当公廷における供述によれば被告人の政治的党派は社会党左派に属し、同左派の推薦候補たる両名の当選を被告人において期待することは当然であつて、右当選させたい考えであつたという意味は、右の趣旨において述べたにすぎないことが窺われるし、また判示記事は両候補者に投票を得るにつき有利な文書ではあるが、要は寺内労組において加賀田、柳田両名を推薦候補に支持決定したという謂わば一つの報道的文書でそれ以上には何等強調しておらず、なおまたその機関紙の態容、発行部数、配布先、方法等これ等客観的一連の行為の上から見て、記事の外に特に両候補者の選挙運動のためになされたと見るべき節もない本件文書の配布において、ただ被告人の右一言をたやすく捉え、もつて被告人にその認識あつたと断ずることは蓋し早計であつて失当たるのそしりを免れないであろう。
以上説示のように本件は結局頒布禁止を免れる行為としてなしたという点につき犯罪の証明なきに帰するから、刑事訴訟法第三百三十六条により被告人に対し無罪の言渡を為すべきである。
よつて主文のように判決する。(昭和二八年三月九日伏見簡易裁判所)